「認知症」と聞くと、物忘れが増えたり、何度も同じことを聞いたり、できないことが増えていく……。
そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
でも、訪問介護の仕事をしていると、私は少し違った見方をするようになりました。
認知症は、ある日突然、何もかも分からなくなるわけではありません。
少しずつ、少しずつ変化していきます。
そして、その変化に戸惑っているのは、周りの人だけではありません。
本人さん自身も、「忘れたくない」「間違えたくない」と、いろいろな工夫をしながら
生活されています。
忘れないように、薬の袋に日にちを書くSさん
認知症のSさんは、痛み止めの薬を飲んだ日にちを、薬の袋に自分で記入されています。
「いつ飲んだのか分からなくならないように」
きっと、そんな思いがあるのだと思います。
薬は飲み方を間違えるといけません。
だからこそ、Sさんなりに「忘れないための方法」を考えているのでしょう。
そして、Sさんのもう一つの習慣があります。
メモを書くことです。
小さな字で、ぎっしりと今日の予定などを書かれています。
「今日は何をするのか」
「何があったのか」
忘れないように、頭の中だけではなく、紙に残しているのです。
でも、そのメモをどこに置いたか分からなくなる
そんなSさんですが、時々、書いたメモをどこに置いたのか分からなくなって、
探していることがあります。
「どこに置いたんだろう?」
一生懸命探します。
忘れないように書いたメモなのに、そのメモ自体を探すことになる。
なんだか少し切なくなる場面です。
でも、私はそこにSさんの「頑張り」を感じます。
忘れてしまうことがあるからこそ、忘れないように書いている。
分からなくなることがあるからこそ、確認できるように残している。
たとえ、そのメモを探すことになったとしても、
「忘れないようにしよう」と努力していることには変わりありません。
認知症の方も、不安とたたかっている
私たちは、認知症の方が同じことを何度も聞いたり、忘れてしまったりすると、
「また忘れてる」
「さっき言ったのに」
と思ってしまうことがあります。
でも、本人さんからすると、忘れたくて忘れているわけではありません。
今までできていたことが、少しずつ難しくなっていく。
自分でも「前とは違う」と感じることがあるかもしれません。
だからこそ、メモを書いたり、薬の袋に日にちを書いたり、周りの人に確認したり。
自分なりの方法で、何とか補おうとしているのだと思います。
「できなくなった」だけを見ない
介護をしていると、どうしても「できなくなったこと」に目が向きます。
でも、その裏側には、
「できるようにしたい」
「忘れないようにしたい」
「自分でできることは自分でしたい」
という本人さんの思いがあります。
Sさんが小さな字でぎっしり書いたメモを見ると、
「こんなに一生懸命、忘れないようにしているんだな」
と感じます。
そして、メモを探しているSさんを見ると、
「一緒に探しましょうか」
と寄り添える自分でいたいと思います。
認知症の方も戦っている
認知症になると、周りの人から「助けてもらう存在」として見られることが増えていきます。
もちろん、できないことを支えることは大切です。
でも、その人自身が何もしていないわけではありません。
忘れないように工夫する。
自分で確認する。
何とか今まで通りに暮らそうとする。
そこには、その人なりの努力があります。
認知症の方も、毎日、自分自身とたたかっているのかもしれません。
私はSさんの姿を見て、
「認知症だからできない」ではなく、「認知症になっても、できることを頑張っている」
という視点を大切にしたいと思うようになりました。
忘れてしまうことばかりに目を向けるのではなく、
「忘れないように、今日も頑張っている」
そんな姿にも気づいてあげたい。
それが、本人さんの尊厳を守ることにもつながるのではないかなと思っています。
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