認知症の方のお宅を訪問していると、こんな光景に出会うことがあります。
収納家具はあるのに、中は整理されていない。
棚の前には籠が置かれ、そこに物がどんどん入れられている。
「どうしてしまわないの?」
「なぜちゃんと片付けられないの?」
そう感じるご家族も少なくありません。
でもこれは、性格や怠けではありません。
脳の働きの変化が関係しています。
片付けは“とても高度な作業”
片付けとは、
- 物が何かを判断する
- どこに置くか考える
- 元に戻すことを覚えておく
という複数の工程を同時に行う作業です。
認知症では、この「段取りを考える力(実行機能)」が弱くなります。
そのため、
✔ 分けられない
✔ 戻せない
✔ とりあえず目の前に置く
という行動になります。
また、収納の中のように“見えない場所”は存在が薄れてしまうこともあります。
だからこそ、目の前の籠に入れるという方法を選んでいるのです。
それは、その方なりの工夫でもあります。
ヘルパーとしての工夫
私たちは「正しく片付ける」のではなく、
“今の力で暮らせる形”に整えることを意識しています。
① 一緒に仕分けをする
全部をヘルパーがやってしまうのではなく、
「これは何に使いますか?」
「一緒に分けてみましょうか?」
と声をかけながら進めます。
時間はかかりますが、
“自分でできた”という体験は大きな自信になります。
② メモやラベルを貼る
収納の中が分からなくなることが多いため、
・「薬」
・「通帳」
・「ハンカチ」
など、大きな文字でラベルを貼ります。
ポイントは
✔ 文字は大きく
✔ 難しい言葉は使わない
✔ 目に入りやすい位置に貼る
完璧な整理より、「迷わない仕組み」を作ることが大切です。
③ 冷蔵庫は“手前作戦”
食材は、賞味期限の近いものを手前に出します。
よく使う物も手前に置きます。
奥にしまうと“なかったこと”になってしまうことがあるからです。
冷蔵庫の中も、小さな生活空間。
見える位置がとても重要です。
④ 全部は変えない
実はこれが一番大事かもしれません。
籠にまとめて入れる方法も、
その方なりの安心の形です。
全部を整え直してしまうと、
逆に混乱や不安を招くことがあります。
今のやり方を活かしながら、
少しだけ使いやすくする。
それが支援だと感じています。
支援とは、責めないこと
片付けられないのではなく、
“片付け方が変わった”のです。
認知症とともに暮らすということは、
これまでの当たり前が少しずつ変わるということ。
大切なのは、
きれいにすることではなく、
安心して暮らせること。
その人らしい生活を守るために、
私たちは今日もそっと環境を整えています。

