「すぐ怒る、手が出る…利用者Wさん 認知症の利用者さんとの信頼の築き方」

介護

介護の現場では、すぐに怒ったり、手が出てしまう利用者さんに
出会うことがあります。
認知症の影響と分かっていても、心が折れそうになることもあります。

私も以前、施設で勤めていた時に利用者Wさんに出会いました。
初めてお会いした時に怒鳴られ、物を投げられたときには、
正直「この方とは難しいかもしれない」と感じました。
でもあるとき、「お孫さんの話」をきっかけに、
その方の表情がパッと穏やかになった
のです――。

怒りっぽく、手が出る利用者Wさん

訪室するたびに険しい表情で「誰だ!帰れ!」と怒鳴られました。
軽く手を上げてきたり、物を払いのけたりすることもありました。
身体もがっしりされていたので、余計に怖くもありました。

左手に麻痺もあったため、オムツ交換などは、協力してもらいながらしなくては
なりません。
職員の中では、対応に頭を痛めていました。

 傾聴に切り替えた日

ある日、いつものようにサービスを始めるのではなく、
「今日は少しお話だけでもいいですか?」と声をかけてみました。
しばらく無言だったその方が、ぽつりと「今日は孫が来る日だったんだ」
とつぶやかれたんです。
そこから、お孫さんの話に耳を傾けることにしました

・どんなお孫さんなのか
・どんなことを一緒にしたのか
・どんな風に成長してきたのか

話しながら、その方の表情がどんどんやわらいでいくのがわかりました。
眉間のしわがほぐれ、声のトーンも穏やかに。
気づけば、その日は暴言も手も出ず、協力的にオムツ交換ができました。

感情は記憶に残る

この経験を通して、私は強く感じました。
認知症のある方は、言葉や出来事の記憶は薄れても、
「感情の記憶」はしっかり残るということ。
初回に「この人は怖い」「嫌な感じ」と思われると、
その後ずっと警戒されてしまうこともあります。

でも逆に、「この人と話すとホッとする」「うれしい気持ちになれる」
と感じてもらえたら、信頼関係は少しずつ築けるのです。

信頼は“話す”より“聴く”から

介護は「やること」が多い仕事ですが、
本当に大事なのは、「この人となら安心できる」と思ってもらえる関係づくりです。

暴言や暴力の奥には、不安や孤独が隠れていることがよくあります。
その声にならない思いに耳を傾けることで、介護の場面が驚くほど変わることもある――
私はこの経験を通じて、そのことを学びました。

最初の関わり方しだいで、その後の関係性は大きく変わります。
「覚えていない」のではなく、「感じたことは覚えている」

その事実を、私たち介護職はいつも心に留めておくべきかもしれません。

 初回でできる信頼関係の第一歩

・目線を合わせる、名前を呼ぶ、挨拶を丁寧に
・まず話を“聴く”ことに集中する
・無理にサービスを進めようとしない
・急に体に触れない
・「緊張していらっしゃるかもしれない」という前提で関わる

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